読書『その名にちなんで』
街作りの方々が集う飲み会に参加した帰りの電車で読み終えた。この車両には、僕の他には一人しか乗っていない。少し酔っているので、入力する手が覚束ない。少し感傷的になるかもしれない。でも書く。
この本を読んだのは、地元図書館の館長がオススメしてくれたからだ。初対面でずうずうしくも「館長!僕、ポール・オースターとカズオ・イシグロとジョン・アーウ゛ィングが最近好きなので、オススメ教えてください!」と強引に聞いた結果、教えてくれたのが、この『その名にちなんで』(著ジュンパ・ラヒリ)だ。
作者は、インド系アメリカ人とでも呼べばいいのか。恐らくアイデンティティを二つ持っている。インドとアメリカと。(正直僕は勧められるまでこの作者のことを知らなかった。でも、この一作だけで大ファンになってしまった。)
主人公のゴーゴリ(この名前が大きなポイントのひとつ)も、ベンガル人を両親に持つアメリカ生まれのアメリカ人。
この作品に悪役はいない。ただ誰もが何かしらの問題を抱え、それは現実に生きている我々でも同じことだ。でも、他人の問題に対して、我々はあまりにも無頓着であったのではないだろうか。繊細に情景を描写していく作者の表現に、そう思わざるを得ない。
事件や出来事そのものは確かに我々の記憶に残っている。だが、大切なのは、人、その一人一人が何を抱え何を思って生きていくのか、だ。
我々心理カウンセラーだけでなく全ての人に、全ての出来事には、そこに誰かが存在しているのだ、ということを忘れないでほしい。
作者が言いたいこととは、違うのかも知れないが、僕はそう感じた。
中国の爆発に巻き込まれた人にも、殺された中1の生徒にも、殺した犯人にも、家族がいて、生きているのだ。恐らく。
多様性を認める、と口で言うのは簡単だが、その周囲には確実に生きている人がいる。
その全てを受容する姿勢。そして、共感しようとする姿勢。そんなことが、とても大切だと、考えさせられている。
もちろんそういったことを考えさせられたこと自体、作者の技術力によることは間違いない。是非一度、読んでいただくことをオススメしたい。
もちろん、ゴーゴリも。
追記:自分の名前が好きになれない人も、ぜひ読んでみて。